税制優遇口座のNISAやiDeCo使ってますか? コロナ禍で明らかになった資産形成の重要性

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が、社会の仕組みを大きく変えるきっかけになった。感染予防を目的としたソーシャルディスタンスや在宅勤務などが通常のスタイルとして定着しつつある。また、緊急事態宣言による外出・移動の自粛による休業・時短営業等の結果、収入減や失職につながった人も少なくない。昨年は「老後2000万円問題」で老後資金の重要性が強調されたが、今年は強制的に働くことができない経験によって改めて貯蓄の重要性に気づかされた。資産形成制度として「NISA(少額投資非課税制度)」「つみたてNISA」「iDeCo(個人型確定拠出年金)」といった税制優遇制度があるが、十分に活用できているだろうか?

楽天証券経済研究所が今年5月に実施したアンケートによると、NISAやつみたてNISAを活用している人が増えている。昨年と比較してNISAを使っている人は39.2%から45.5%に増え、つみたてNISAをしている人は15.4%から26.1%に増えた。いずれかのNISA口座を持っている人は昨年の54.6%から今年は71.6%に拡大した。アンケートは、楽天証券に口座を持っている人を対象としているため、株式投資や投資信託、FX(外国為替証拠金取引)等に関心のある人だが、それでも昨年時点では50%程度しかNISAを活用していなかったことになる。それが、今年は70%超に高まった。

NISAのメリットは、投資収益(売買差益、配当収入等)に対する非課税なので、それほど大きなメリットはない。たとえば、NISAの年間限度額120万円を投資して10%の投資収益があったとして、通常の口座では収益12万円に対してかかる約20%(2.4万円)の税金が非課税になる。投資で収益がなければ、メリットはゼロだ。この程度のメリットのために、売買のたびにNISAを使うかどうかを明らかにし、しかも、年間限度額を意識するのは面倒だと感じる人が少なくないのは事実だろう。まして、つみたてNISAの場合は、定期的な積立投資でなければならず、限度額は年間40万円と小さく、しかも、対象商品が限られている。NISAと比較して利用者が伸びないのは、使い勝手が悪いことが原因だろう。

本来であれば、投資収益非課税のメリットは、最長で5年間のNISAよりも20年間にわたって投資を継続できるつみたてNISAの方が大きい。つみたてNISAについては、さまざまな制度利用のための条件をなくして普及を促進したい。NISAと同様に好きな時に投資ができ、さらに、対象商品を幅広い金融商品から自由に選べるようにする制度改革が必要だろう。長期・積立・分散を促すため、低コストで分かりやすいインデックス投信を中心にするという対象商品限定の狙いは理解できるが、既に対象商品の中には信託報酬が年0.1%を下回る商品が出てきた。長期運用に適した低コストの運用商品を提供するという所期の目的は果たせたので、制限の緩和を行っても良いのではないだろうか。

一方、iDeCoは6月17日に開催された社会保障審議会企業年金・個人年金部会の開催を機に、制度改正の議論が始まった。2020年改正では見送られた拠出限度額について、分かりやすく改正する方針だ。現在は、1号、2号、3号など加入する年金保険制度による限度額の違い、また、2号被保険者は就労する企業の年金制度による限度額の違いもあって、個々の拠出額の上限が複雑な仕組みになっている。17年1月以降は「国民の誰もが利用できる制度」になったはずだが、企業型確定拠出年金でマッチング拠出を利用している人はiDeCoに加入できないなど制限がある。20年改正によって22年10月以降に、企業型確定拠出年金に加入している人のiDeCo利用がより簡便になり(事業主掛金とiDeCo掛金の合算管理)、マッチング拠出を導入している企業従業員もiDeCoの利用が可能になるが、加入者の立場に応じて拠出上限額を細かく決めている制度は、分かりにくい制度といえる。

iDeCoは、掛金(投資金額)が全額所得控除の対象になる。例えば、課税所得が200万円の人が、毎月2万円をiDeCoで積み立てた場合、年間で4.8万円(拠出総額の20%相当)が節税でき、確定申告によって還付を受けられる。課税所得が330万円以上の場合は掛金の30%相当が節税できる。これは運用益の有無に関わらず、iDeCoを始めるだけで受けられるメリットだ。さらに、NISAと同様に運用益には非課税で、かつ、受け取る時には退職所得控除や公的年金等控除の対象にもなる。もっとも、このような手厚い税制優遇があるため、掛金は60歳になるまで引き出せないという制限がある。

iDeCoの加入者は、今年4月末時点で約159万人。NISAの利用者がつみたてNISAと合わせて1365万口座(19年12月末)あるのと比較して圧倒的に少ない。制度が18年1月に始まったばかりのつみたてNISA(約189万口座)よりも少ない。自分自身の加入限度額が把握しづらいなど、制度加入の手続きが面倒であることが加入促進の足かせになっている。手続きの簡素化については、継続的に改善が図られているが、オンラインで加入手続きを完結させるなどの改善をスピードアップして取り組んでもらいたい。

金融審議会の市場ワーキング・グループがまとめた報告書「高齢社会における資産形成・管理」では、「ライフイベントに応じて引出すことが可能なつみたてNISAと、年金制度として所得控除が認められているiDeCoとは、両者を併用することで、住宅購入などの計画的に準備が必要な支出や、病気、事故、失業などの予想外の支出への備えをしつつ、老後に向けた資産形成が可能となるものである。よって、お互いが補完しあう関係として活用が進むことが望ましい」としている。iDeCoの加入者159万人は、加入対象者(20歳~60歳)6746万人(19年3月末)の2.36%に過ぎない。高齢社会への備えとして整えてきた制度としては、はなはだ心もとない普及状況だ。

コロナ禍で改めて貯蓄の重要性に気づかされた今、NISAの利用が拡大したのは、「売買益の20%とはいえ、少しでも有利であれば利用したい」という心理が働いたためだろう。iDeCoの場合は、拠出額の全額に対して「所得税(5~45%)+地方税(10%)」の税率分が戻ってくる。せっかくの制度なので、資産形成の手段として活用していきたい。(図表は、資産形成をサポートする国の制度)