進化するESG投資、公的年金を運用するGPIFは債券運用でもESG重視

 公的年金(厚生年金と国民年金)の年金積立金の運用を担っているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のESG(環境・社会・ガバナンス)投資が進化している。6月10日にはグリーンボンドに関してノルウェー地方金融公社(KBN)との連携を発表したが、今年になってからだけでも米州開発銀行(IDB)、ドイツ復興金融公庫(KfW)、スウェーデン地方金融公社など欧米の発行体と、相次いで債券のESG投資に関して連携している。GPIFは、投資判断のプロセスにESGの要素を織り込む「ESGインテグレーション」をめざしているが、内外の機関投資家が注目するGPIFの動きだけに、株式運用の分野で定着し始めたESG重視の運用姿勢が、債券の分野にも急速に広がる可能性がある。

GPIFは15年に国連責任投資原則(PRI)に署名して以来、年金資産の運用にあたってESGを重視する姿勢を鮮明にしてきた。これは、投資にあたってESGを適切に考慮することが、「被保険者のために中長期的な投資リターンの拡大を図るための基礎となる企業価値の向上や持続的成長に資するものと考える」からで、揺らぐことがない方針になっている。

そして、17年7月3日に日本株式のESG投資インデックスとして「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」、「FTSE Blossom Japan Index」、「MSCI日本株女性活躍指数(WIN)」を選定。18年9月にはグローバル環境株式指数として「S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数」と「S&Pグローバル大中型株カーボン・エフィシェント指数(除く日本)」を選定し、それぞれの指数に連動するパッシブ運用株式ファンドへの投資を開始している。

一方、債券については、17年10月に世界銀行グループと共同で「債券投資とESGに関する共同研究」を開始。18年4月に共同研究の報告書を発表し、「ESGの要素を債券投資の運用プロセスに統合することが、リスク管理の強化につながり、より安定した投資リターンに貢献し得る」と研究成果をまとめている。

この研究成果の後、19年からは、グリーンボンド等について世界的な発行体をGPIFが運用を委託する運用会社に提案する活動を開始した。同年4月には世界銀行グループの国際復興開発銀行(IBRD)と国際金融公社(IFC)を運用会社に紹介したことを皮切りに、欧州投資銀行(EIB)、アジア開発銀行(ADB)、北欧投資銀行(NIB)、アフリカ開発銀行(AfDB)、欧州復興開発銀行(EBRD)、イスラム開発銀行(IsDB)、欧州評議会開発銀行(CEB)と、大手の発行体を続々と運用会社に紹介した。この動きが20年になっても継続している。

グリーンボンドやソーシャルボンド、サステナビリティボンドなどは、国際資本市場協会(ICMA)が「グリーンボンド原則」などでガイドラインを示している。それぞれ、債券発行で調達した資金の使途が、環境(グリーンボンド)や社会(ソーシャルボンド)、社会の持続的発展(サステナビリティボンド:グリーンとソーシャルの双方を意図)に貢献することに限定され、その資金使途についてモニタリングと報告が義務付けられている。グリーンボンド等として発行された債券は、確実に環境問題や社会問題への対応に使用されることになっている。投資家にとっては、透明性が高く、PRIに則った資金運用をしていることの象徴にもなる。

ただ、世界的に見てもグリーンボンド等の発行額は限られている。環境省が運営している「グリーンファイナンスポータル」によると、近年発行が急増しているグリーンボンドでも2019年の発行総額は2575億米ドル(約28兆円)。日本の国債の新規発行額だけでも今年度約50兆円、発行総額は153兆円に達する見込みであり、機関投資家の投資対象としては、非常に小さな規模に過ぎない。GPIFが世界的に大きな発行体を、運用委託先の運用会社にせっせと紹介しているのも、発行体との良好な関係なくしては、現実的に債券投資にESGを取り入れることが難しいからだろう。つまり、GPIFは発行体を運用会社に紹介までしても、グリーンボンド等による運用を拡大したいと考えている。このメッセージが運用会社に与える影響は決して小さくないと考えられる。

国内の公募投信では19年5月に設定されたSBIアセットマネジメントの「SBIグローバルESGバランス・ファンド(愛称:グリーンインパクト)」が株式と債券に各50%配分する比率で、債券部分をグリーンボンドとするファンドで、「初めて債券にもESG投資を行うファンド」として注目された。そして、今年2月18日に大和アセットマネジメントが「クリーンテック株式&グリーンボンド(愛称:みらいEarth)」を新規設定している。こちらも残高の50%をグリーンボンドに投資するバランス型ファンドだ。両ファンドともに、シリーズで20億円前後の残高と現在の規模は小さいが、国際的にESGへの関心が高まっているだけに、今後の成長が期待される。(図版は、世界のグリーンボンド発行額の推移。出所:グリーンファイナンスポータル)