22年4月施行の改革年金法、既存ファンドでは太刀打ちできない年金受給先送りメリット

 6月17日に会期末を迎える今国会で、「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法」が審議され、5月29日に成立している。この改正では、短時間労働者への厚生年金の適用拡大も図られるが、より広く影響があるのは「公的年金の受取開始時期の弾力化」だろう。従来は、60歳~70歳の間で任意に受給開始時期を決定できていたものが、60歳~75歳の間で受給開始できるようになった。繰り下げ期間が5年間延長された格好だ。この延長は、老後の資産形成プランに大きな影響がある。

公的年金の受給開始については、現在は65歳を基準に、60歳まで前倒して受給するか、70歳まで先送りすることができる。前倒して受給する場合は、1カ月について0.4%の比率で受給額が減額される。たとえば、5年間前倒しして60歳から公的年金の受給を開始した場合は、65歳で受け取れる年金額が24%減額されることになる。反対に、70歳まで先送りして受給する場合、1カ月遅れるごとに0.7%上乗せされる。70歳で受給開始すると、65歳で受け取れるはずだった年金額が42%割り増しされることになる。月額20万円の年金(基礎年金+厚生年金)の場合は、60歳で受け取ると月額15.2万円になり、70歳から受け取り始めると、28.4万円になる。

今回の改正で決定されたのは、75歳まで10年間先送りが可能になることだ。受給開始が1カ月遅れるごとに1カ月当たり0.7%が上乗せされる条件は変わらない。このため、75歳から年金を受給し始めると、65歳時点でもらえる予定の年金額が84%増額されることになる。月額20万円の場合は36.8万円だ。公的年金は、年金額が確定すると対象者が死亡するまで年金を受け取ることができる。

この1カ月当たり0.7%、年間で8.4%が増える仕組みは、資産運用で目標利回りに置き換えてみると、非常に高いことがわかる。たとえば、5月末現在で、残高10億円以上、運用期間10年以上の公募投信(ETF、DC専用・SMA専用含む)1451本の中で、トータルリターン(3年)で年8.4%を超えるファンドは55本しかない。全体の3.8%だ。トップは年17.95%になる「netWIN GSテクノロジー株式ファンドB(H無)」(ゴールドマン)、第2位が年16.98%の「米国NASDAQオープンBコース」(野村)、第3位が年16.70%の「DIAM新興市場日本株ファンド」(アセマネOne)になる。いずれも株式アクティブファンドで、ランキング上位には中小型株式に選別投資するファンドが多い。

つまり、年8.4%を超えるリターンをあげられるファンドを選ぶことは非常に難しい。一般的なインデックスファンドでは、「STAMダウ・ジョーンズインデックスF」(三井住友TAM)が年6.90%、「日本インデックス225DCファンド」(岡三)は、年5.67%なので、年8.4%には遠く及ばない。年金の受給開始を1年間先送りすることは、自分で資産運用して手持ち資金を増やすことよりも、よほど確実に資産を増やすことになる。つまり、手元資金を取り崩して生活しながら、年金の受給開始時期を先送りする方が有利なのだ。

65歳を起点に、年金受給を5年先送りするには、毎月20万円の生活費を考えて1200万円の資金が必要になる。昨年、年金2000万円問題が話題になったが、あの問題のポイントは、「公的年金だけでは老齢夫婦世帯で毎月約5万円が不足する。老後が30年間あるとすると約2000万円が足りない計算になる」ということだった。仮に年金額が月20万円として、5年先送りすれば、年金額は毎月8.4万円が増額できる。実は1200万円の老後資金で、2000万円問題への対策が打ててしまう計算になる。

もちろん、人はいつまで健康を保っていられるのかは分からない。1年でも早く会社員生活をリタイヤして、悠々自適の老後生活を始めたいと考える人もいるだろう。その場合でも、60歳までは公的年金の保険料をしっかり収めた上で、70歳まで公的年金を受け取らずに生活できるだけの資金にメドがたてば、早期リタイヤも可能になる。

年金受給開始を75歳まで先送りできる改正年金法の施行は2022年4月。ここで述べたのは、あくまでも計算上のことである。今後は消費税が一段と引き上げられ、公的年金の不足額が夫婦で5万円程度という現在の試算が通用しない事態になることもある。老後の資金計画には、ある程度のゆとりを持って考えることが肝心だ。公的年金をより柔軟に受給できるようになる年金改正法を控え、老後資金計画の練り直しも考えたい。