コロナ禍で飛躍するオンライン戦略、投信ネット販売を草創期から知る三井住友DSアセットの宗正彰氏に聞く

 コロナ禍で対面販売が大きな制約を受け、投信販売に苦戦する販売会社が目立っている。その中にあって、投信のネット販売が急速に拡大し、残高を大きく伸ばしている。コロナ禍によって投信販売も大きな転換期を迎えた。投信のネット販売について、その草創期から現在に至るまで第一線で活躍してきた三井住友DSアセットマネジメントのオンラインマーケティング部長である宗正彰氏(写真)に、コロナ禍を機に大きく変わりつつある投信オンライン販売の現場について聞いた。

――コロナ禍で「オンライン」というワードが際立っています。投信運用業界で、オンラインマーケティングの先駆けとも言える今の立場を創るきっかけは?

中央三井信託銀行(現在の三井住友信託銀行)の運用部門で「運用企画/ファンドマネージャー/株式アナリスト」を経験し、アナリスト時代には「IT/メディア/エンタテインメント」業界を担当しました。信託銀行を退職後に音楽系上場企業の取締役経営戦略部長として当時、「音楽配信事業」の立ち上げを経験するなど、「資産運用」と「オンライン」は常に身近な存在でした。

2008年の当社入社時に投信業界が対面マーケティングにしか対応していないことに驚いたことを覚えています。そこで、当社にて情報戦略チーム(現在の調査部)、投信直販事業、オンラインマーケティング部など、一貫してオンライン投信に関わる新たな部署を立ち上げて、オンラインを通じた投信マーケティングについて、様々な取り組みをしてきました。

特に、投信の直販事業を立ち上げたことで、運用商品のみならず、投信の販売会社としてミドルおよびバックオフィス業務まで経験できたことは、販売会社の方々とオンライン販売について戦略を語る上で大きなスキルになっています。

――コロナ禍になり、オンラインマーケティングで変わったことは?

着実に進行していた投信業界の「オンライン化」が一気に加速しました。3月の新規口座開設数は多くのオンライン証券で前年同月比3倍を記録しました。4月~7月までは前年同月比2倍のペースで進んでいます。これに連動してオンライン投信は一気に残高を増やしたのです。

「Withコロナ時代」に投信のオンライン販売は更に浸透し、「Afterコロナ時代」では、オンライン販売が当たり前になると確信しています。

今のコロナ禍で、対面販社の方々からは、どこまでオンラインの仕組みを取り入れるか迷っているというご相談を頂くことが増えました。オンライン販社の草創期から知っている私からすれば、投信のオンライン販売は、そんなに甘くは無いとお答えしています。

オンラインマーケティング部が担当するオンライン証券、ネット銀行のビジネスモデルは長い歴史を有し年々進化しています。たとえば、ビッグデータと言う言葉が世の中に浸透していない時代から、それをスモールデータ化してオンラインマーケティングに活かしてきました。このようなスキルとノウハウの積み重ねが今の成功を導いています。これからも各社の努力は続いていきます。これに対抗することは簡単ではありません。対面販社には対面チャネルの優位性を活かしつつ、それを効率化する手段として、お客さま目線でオンラインの仕組みを取り入れる提案をしています。

社内外でよく話していますが、オンラインのビジネスモデルは机上の空論であれば誰でも構築することができます。しかし実際は、運営が最大の課題です。現実を見据えずにビジネスモデルを語ることは空想に過ぎません。メールマーケティングで何故開封すらされないのか、発信したレポートは何故途中までしか読んでもらえないのかなど、継続的なデジタル分析を行うことで常に改善をし続けることが重要です。

――投信オンライン戦略に不可欠なことは?

対面チャネルと同じマーケティング手法は全く通用しないということを認識することが重要です。たとえば、オンラインでの投信販売は、ファンドの数で設定や残高の全体を増やす方法です。特定のファンドを一定期間で集中的に販売する対面チャネルとは大きく異なります。私が運用会社の立場からオンライン販社の方々に提案していることは、どうすれば数多くの取扱いラインナップの中からお客さまに効率的にファンドを選んで頂くことができるのか、そのためにウェブコンテンツや各種メディアを含むオンラインスキーム、イベントやセミナーの内容はどうすれば良いのかということです。販社のお客様向け「1to1」マーケティング会議にも参加せて頂き、運用会社としての考えも述べさせて頂いています。

国内の金融業界において、オンライン証券やネット銀行は金融オンライン戦略の常に最先端の仕組みを構築しサービスを提供し続けています。彼らと議論し、お客様にとって最高のサービスを提供するにはどうすべきかを考え続けることが今の私に与えられた大きな使命の一つです。決してゴールは無く、変化し続けるオンライン戦略の分野で、販社の方々と日々議論を重ねることができる今の立場に喜びと幸せを感じています。

――Withコロナ時代のデジタル戦略及びメディア戦略とは?

PR会社などを使って目先の発信数の増加を狙ったような単なる情報の乱発は、オンライン時代の現代において却ってお客様の不信感を募らせることに繋がります。ターゲットとなる顧客属性と一致しないメディア戦略は獲得口座数や設定額に結び付くことは絶対にありません。そして、オンライン時代のお客様は「予定調和」は大嫌いです。発信情報の本質を見極めることに慣れたお客様にライブ感の無い情報は通用しません。このことはオンラインでのイベントやセミナーで淡々と一人で台本を読み続ける配信動画が視聴者数を獲得できないことでも明らかです。

Withコロナ時代では情報発信数の急増が予想されます。オンライン特性を活かした真の双方向コミュニケーション力が試される時代が到来したと言えるでしょう。

運用会社としてのオンラインマーケティング戦略は、付加価値の高いオンリーワンの各種コンテンツを販社と協働で制作し、お客様と直結し巨大なメディアパワーを有する販社のホームページやSNS、メールなどで発信、より多くのお客さまにお届けすることが大事です。そして、第三者からの感想や意見、例えば、SNSなどを通じて「投資してみて良かった」という情報を広めていくことです。SNSの特長は予定調和の無い信頼できる情報が選好され、人から人に伝えられ拡大して行くことにあります。そのためには、多くのお客さまに情報に触れてもらう必要があります。

YouTubeをはじめ数多くのSNSは、そのチャンネルがどれくらい支持されているのか視聴者数やフォロワー数で明示されてしまいます。動画配信を始めることは非常に簡単ですが、視聴者数が増えないのは逆効果です。フォロワー数が少ないSNSは品質が悪く、信頼に足りない情報内容だと思われ、却って信用力を失うことになるでしょう。デジタルコンテンツが流行っているからと言って、単に発信を始めるだけでは全く意味が無いどころか逆効果に成りかねないということを認識する必要があります。

最近では「IFA(金融商品仲介業)法人」の方々からもオンライン戦略のご相談を頂くことが非常に増えています。国内全域でビジネス展開をする中で、新規顧客の獲得からオンラインセミナーの開催など、オンライン戦略は必要不可欠な位置付けとなっています。近年、急拡大を続ける「IFA法人」は対面チャネルの代表格の一つですが、ここでもオンラインマーケティングの領域は拡がっています。

20年前に始まったオンライン販売は、長年の試行錯誤を経て、いよいよ投信市場にも大きな波となってやってきました。今や、あらゆる商品やサービスがオンラインで販売される時代です。投信だけが例外で、対面販売でなければ売れないということはありません。投信オンライン販売の時代は、一気に開けていくと同時に、オンラインの特性を活かしながら異業種も巻き込んだ各社各様のビジネスモデルの多様化が進むと確信しています。このような動きは引いてはお客さまの資産形成に資する動きであり、極めて良い傾向であると思います。